1. 目的 

低酸素性虚血性脳症と診断されたお子さんは、分娩の前後にお子さんの全身に酸素や血液がうまく届かなかった可能性があり、全身や脳へのダメージが心配です。低酸素性虚血性脳症と診断されたお子さんたちが、どのように成長、発達していくのかを知ること、また、歩く、立つなどの運動、お話しの理解やコミュニケーション、さらには学校での学習などにどのような問題を持つのかを把握することは、必要な診療や援助を行うためにとても重要です。しかし、低酸素性虚血性脳症のお子さんたちの長期的な発達は、まだ十分に分かっていません。

この研究では、日本で出生した低酸素性虚血性脳症のお子さんたちの発育を見守り続け、その発達を12歳まで追跡調査します。この研究により低酸素性虚血性脳症の新生児期の治療と将来の発達についてのデータを得ることが可能になり、診療と発達フォローアップについて情報をご家族と共有することで、人生のスタートをよりよくし、ご家族の育児支援に役立つことが可能になると考えます。

 

  1. 対象

この研究の対象になる方は、在胎週数36週以上かつ出生体重1800g以上で出生し、低酸素性虚血性脳症と診断されたお子さんです。対象となる保護者の方には、説明・同意文書を用いて研究の説明を行っています。

2.1 選択基準(新生児低酸素性虚血性脳症の診断)

以下の(1)(2)をすべて満たす。

  • 低酸素虚血の証拠がある児(低酸素虚血の定義は①または②とする)

生後1時間以内の血液ガスでpH < 7.0、BE < -16、Apgar10分値 ≤ 5点、10分以上の蘇生のいずれか一つを満たす。

生後1時間以内の血液ガスでpH < 7.15、BE < -10のいずれか一つを満たし、さらに胎児が強い低酸素虚血に曝露された可能性が高い産科的イベント(胎盤早期剥離、臍帯脱出、肩甲難産、Non-reassuring fetal statusなど)がある。

  • modified Sarnat score 2点以上の児

研究機関に所属する医師が、生後1-6時間にmodified Sarnat scoreを用いて脳症の重症度評価を行う

2.2 除外基準

重度の発達遅滞の原因となりうる染色体異常、遺伝子異常、先天性代謝異常をもつ児

脳の形態異常(孔脳症、全前脳胞症など)をもつ児

その他、重度の発達遅滞の原因となりうる先天性疾患(先天性心疾患、神経筋疾患、消化管疾患、先天性多発奇形症候群など)をもつ児

各施設の研究責任者/研究分担者が研究参加を望ましくないと判断した児

 

  1. 登録

3.1 施設登録

各施設の研究責任者は、施設名、診療科名、電話番号、住所、責任者氏名、Eメールアドレスを研究代表者(神奈川県立こども医療センター 新生児科 柴崎淳)に連絡します。研究代表者は施設番号を割り付けて、各施設の研究責任者に連絡します。

3.2症例登録

担当医は、選択基準をすべて満たし、除外基準のいずれにも該当しないことを確認した場合、保護者に同意説明を得た後、データセンター(REDCap)に症例を登録します。各施設の研究責任者は、患者の識別番号と個人情報の連結表を厳重に保管します。

 

  1. 研究期間

この研究は西暦2040年12月31日まで行う予定です。

(症例登録期間:許可日~2026年12月31日、観察期間:第1例目の症例登録日~2039年12月31日)

 

  1. 研究実施のスケジュール

5.1登録時・退院時

妊娠と出生時の状況について日常診療で得られる電子カルテに記載された内容や診療内容、血液検査や画像検査の結果を収集して解析を行います。

5.2 退院後

5.2.1 保護者の方によるウェブ入力

生後1歳、2歳、4歳、6歳、9歳、12歳に発達の情報を保護者の皆様にご協力をいただいて収集します。各調査時期になったら保護者の皆様のメールアドレス宛にお知らせのメールを研究班より送付します。メールに記載されたURLのウェブサイトにアクセスし、ご自宅でアンケートへ回答してください。また、退院までに保護者の皆様へアンケート用紙を前もってお渡しします。一部の質問にはアンケート用紙も参照しながら回答をお願いします。アンケート回答結果の入力はスマートフォンやPCから保護者の方にお願いします。一部、アンケート用紙に記入し、郵送をお願いする質問もあります。

5.2.2 外来受診

生後1歳、2歳、4歳、6歳には外来を受診していただくことをお願いします。保護者の方によるウェブサイトでの入力が困難な場合には、回答を記入したアンケート用紙をお子さんの外来受診時などに受け持ち医師にお渡しください。医師がウェブサイトに入力します。また、アンケート内容が分かりにくいなど、ご自宅での回答が困難な場合は、外来受診時に受け持ち医に相談してご回答ください。

 

  1. この研究に参加することによる利益・不利益について

収集する情報は通常の診療とアンケートで得られる情報だけで、この研究のために特別な治療や投薬を受けることはありません。退院後は定期的にお子さんの健康状態や発達のフォローを受けることができます。アンケートに回答して、ウェブサイトに入力していただくために、30〜40分程度の時間がかかります。データ登録する際には患者さんご家族が所有する通信機器を利用するため、インターネットの利用状況によっては、新たに通信料が発生する可能性があります。ご家族には郵送の費用負担はありません。なお入院中、外来受診時の診療は保険診療内で実施可能です。

また、当研究のウェブサイトから低酸素性虚血性脳症の診療や発達予後、育児支援などに関する情報にアクセスしていただくことができます(https://babycooling.jp/)。また、研究への参加により、新生児低酸素性虚血性脳症のお子さんの診療、ご家族の育児にとって有用な情報の収集に貢献していただいたことになります。

 

  1. 研究で用いた情報の二次利用の可能性について

保管した情報を、将来、低酸素性虚血性脳症の子どもの発育・発達を検討する研究に関する研究に使用させていただくことが予想されます。その場合には、改めて医学系研究倫理審査委員会にその研究の研究計画書を提出し承認を受けます。将来の研究に用いることをご了承いただける場合は、情報を本研究終了後も保管させていただきます。また、研究を行う場合は、その研究について改めて情報を公開します。

 

  1. この研究で用いる情報

この研究では出生後から退院、成長過程での医療情報を用います。用いる医療情報は、下記のとおりです

  • 受け持ち医がカルテから収集する情報

【登録時情報】

1)母体情報、分娩時情報

出産時母体年齢、妊娠分娩歴、不妊治療の有無、多胎の有無、母体合併症、妊娠中の喫煙歴、胎児機能不全の有無、分娩方法、全身麻酔の有無、母の無痛分娩の有無、分娩時合併症、出生場所、両親の人種、両親が日本語を日常会話として話すことが出来るか

2)出生時情報

出生日時、在胎期間、出生体重、性別、生後10分までのApgarスコア(生まれた後の元気さを評価するスコア)と蘇生内容、血液ガス検査の結果、児の先天異常の有無

3)神経学的所見(脳症の重症度評価)

生後6時間以内の脳症の重症度判定結果、新生児発作(けいれん)の有無、脳波検査の有無

【退院時情報】

1)体温管理・治療情報

新生児集中治療室(NICU)到着時間、NICU入院時体温、低体温療法の有無、

「低体温療法有り」の場合には冷却開始時間、目標深部体温、冷却方法、中断の有無

「低体温療法無し」の場合には目標深部体温、体温モニタリングの有無及び内容、脳波検査の有無、併用脳保護療法の有無及び内容

生後96時間以内の薬剤投与の有無(鎮静薬、筋弛緩薬、循環作動薬)、呼吸管理の有無および方法(呼吸管理日数を含む)

2)合併症

生後96時間以内の低血圧・一酸化窒素吸入療法を要した新生児遷延性肺高血圧・凝固異常・敗血症・血小板減少・皮下脂肪壊死・深部体温≧38℃・不整脈の有無

3)退院時の情報

退院時の健康状態、経口哺乳の状況、呼吸補助の有無および内容、MRI撮影の有無

4)脳MRI画像検査の情報

脳MRI撮影日時、画像データ

5)脳波検査の情報

aEEGモニタリング(脳波の振幅の変化を圧縮して表示したトレンドグラフ)の有無、aEEG記録期間、機種、電極装着部位、脳波データ

なお、4)脳MRI画像検査の情報と5)脳波検査の情報は追加検査実施施設でのみ収集します。各施設で収集した脳MRI画像は神奈川県立こども医療センターへ、脳波データは日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院へ提供されます。この2施設において、提供されたデータをもとにあらためて診断を行い、その結果をこの研究に利用します。

 

8.2 保護者の皆様へのアンケート調査

アンケートで回答をお願いする内容の詳細は以下の表の通りです。

年齢アンケートの内容
1歳健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況

ご家族の生活状況:きょうだいの有無、両親の最終学歴、難聴の家族歴、発達障害(自閉スペクトラム症・注意欠陥多動症等)の家族歴、世帯の年間収入

2歳全般的な発達評価、運動発達の評価、発達障害の評価、健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況
4歳全般的な発達評価、運動発達の評価、発達障害の評価、健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況
6歳運動発達の評価、発達障害の評価、健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況
9歳就学状況の調査、健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況
12歳就学状況の調査、健康状態、てんかんの有無、視覚障害の有無、難聴の有無、医療的ケア(経管栄養、呼吸補助、喀痰吸引)の有無、療育の利用状況

 

アンケート調査以外で検査者が面談で実施する発達評価として、一部施設では4歳時にVineland-II適応行動尺度、6歳時にはWISC(知能を測定する検査)による発達評価を実施し、そのデータをこの研究に利用します。

 

全体を通してのスケジュールは以下の図の通りです。

 

  1. 個人情報等の取り扱い

お子さんの情報は、住所、氏名等の個人を特定する情報が削られ、代わりに新しく符号(この符号を、被験者識別IDと呼びます)がつけられて使用されます。なお、お子さんとこのIDとを結びつける対応表は、情報を頂いた病院や研究機関で厳重に保管します。

お子さんの情報は、個人が特定されないようにして、この研究で用いている国立成育医療研究センター内のデータシステム(REDCap)に研究責任者又は研究分担者、そして保護者の方がウェブサイトから入力します。データシステムの登録内容は被験者識別IDで管理されているため、第三者が個人を識別できる情報は含まれません。また、データシステムへ外部から侵入があっても、お子さんを特定することはできません。

 

  1. 同意を撤回したい、または情報の利用を希望しない場合

この研究への参加は保護者の皆さんの自由意思によるものです。また、この研究に同意された後であっても、いつでも参加を取りやめることができます。同意の撤回を希望する場合は別紙「同意撤回書」に署名して、下記問い合わせ先までお申し出ください。同意撤回書の内容に応じて、提供していただいたデータは適切に取り扱われます。ただし、同意撤回の時点で既に研究に使用されていた場合は、データ等の一部が公開されていることもあり、そのようなデータも含めた完全な廃棄は行うことができません。

 

  1. 研究により得られた研究成果等の取り扱い

この研究で得られるデータ又は発見に関しては、研究者もしくは研究者の所属する研究機関が権利保有者となります。この研究で得られるデータを対象とした解析結果に基づき、特許権等が生み出される可能性がありますが、ある特定の個人のデータから得られる結果に基づいて行われることはありません。したがって、このような場合でも、あなたが経済的利益を得ることはなく、あらゆる権利は、研究者もしくは研究者の所属する研究機関にあることをご了承ください。

 

  1. 資金源及び利益相反(COI(シーオーアイ):Conflict of Interest)について

研究一般における、利益相反(COI)とは「主に経済的な利害関係によって公正かつ適正な判断が歪められてしまうこと、または、歪められているのではないかと疑われかねない事態」のことを指します。具体的には、企業等が研究に対してその資金を提供している場合や、研究に携わる研究者等との間で行われる株券を含んだ金銭の授受があるような場合です。このような経済的活動が、研究の結果を特定の企業や個人にとって有利な方向に歪曲させる可能性を判断する必要があり、そのために研究の資金源や、各研究者の利害関係を申告することが定められています。

この研究は、2021年度日本周産期・新生児医学会 周産期臨床研究 Award および日本学術振興会科学研究費 基盤研究(C) 22K07906により実施します。なお、研究に使用する医薬品等製造販売業者からの資金提供等はありません。

なお、この研究では、企業等の関与と、研究責任者および研究分担者等の利益相反申告が必要とされる者の利益相反(COI)について、各研究施設の利益相反委員会の手続きを終了しており、生命・医学系倫理指針を遵守して適切に対応します。